来栖けい『美食の王様 究極の167店 珠玉の180皿』

美食の王様 ―究極の167店 珠玉の180皿
あら皮(「あら」は本当は漢字)、すきやばし次郎ロオジエ、辻留、アロマクラシコ……グルメではない私ですら名を知っている高級店が続々登場。
著者はどんな金満オヤジかと思いきや、25歳の女性というのだから驚く。しかも他人の援助は一切受けず、自分のお金で食べ歩く主義という点にさらにびっくり。というのは、来栖さんの食べる量は半端じゃなく多いからだ。「早朝から深夜まで食べ続けることができる」うえ、お店では気になるメニューは全てオーダー。前菜からデザートまで計27品(!)をペロリと平らげたりしている*1。食にこんなにお金をつぎ込めるなんてどんな仕事してるんだろ、資産家のお嬢さんなのかな……などと勘ぐりそうにもなるけど、女子の基準を超えた食べっぷりのよさにはとても好感が持てる。「あまりの美味しさにおかわりしたくなった」という一文には激しく同意。よく「美味しいものは少量でも満足」という意見を聞くけど、私は反対で、美味しいものこそ沢山食べたいと思うもんね〜。おっとっと、話が逸れかけた。
レストラン篇と料理篇の2部構成になっていて、なんといっても圧巻は料理篇。来栖さんお気に入りの料理の数々がランキング形式で紹介されているのだが、本を書こうと思った動機が「1つ1つの味を詳しくきちんと書いてある本が見当たらなかったから」というだけあって、ひとつの料理について実に精緻に描写してある。素材と調理法、見た目に始まって、香り、食感、味わい、余韻……来栖さんの鋭敏な味覚、嗅覚が冴え渡り、読むだけで食べた気分になれてしまうほど。しかも、来栖さんがいかに「美味しい!」と思っているのがよ〜く伝わってくるのが素敵。あまりにも美味しそうなので、ついつい後述の妄想リストなどを作ってしまう。ランキングに関しては、とにかく「入船」(お寿司屋さん)の料理に心から惚れ込んでいて、食材は大トロ、小鳩、イベリコ豚が大好きなのね、というのがよく判る辺りが微笑ましい。鋭い舌と鉄の胃袋が生み出した、目で満腹になる本、と言える。パンや和洋菓子篇も出版予定だそうで、すごく楽しみ!
(追記)
ほかにも美食家の女性が書いた本は何冊か読んだことがあって、「美味しそー」とよだれを垂らしつつも、その一方で「ケッ」とか思うこともたまにあった(苦笑。ビンボー人の僻み以外の何物でもないなー)。この本を読んで全くそういう感情を抱かなかったのは、来栖さんの食に対する姿勢にマニアックな匂いを感じるからかも。まえがきに「食のために生きているような人間です」とあるし、自分で使えるお金のほとんどを食につぎこんでいるはず。こういう、ひとつのことに徹底的にのめり込むタイプの人は好きなのだ(ジャンルにもよるけど)。褒め言葉なんだけど、「美食バカ一代」といっては気を悪くされるかな? 「珠食」の方がいいのか。

【リッチになったら一度食べてみたいと思った10の料理】

  • うかい特選牛 牛刺し三種盛り/銀座うかい亭
  • 野菜の炭火焼き盛り合わせ/イタリア料理 寺内
  • アワビのバター焼き/入船
  • AMADAI:アマダイ(博多産)パン・コン・トマテ、小赤ピーマン、ニンニク風味のスープ/レストラン サン・パウ
  • 三田特撰炭焼ステーキ(シャトーブリアン)/あら皮
  • キャビアを添えたウニとオクラの冷製カッペリーニ わさび風味 芽ネギとともに/リストランテ・キオラ
  • ルーコラのペーストであえたトゥローフィエ/フォリオリーナ・デッラ・ポルタ・フォルトゥーナ
  • ガーリックライス/銀座うかい亭
  • ビフテキ丼/牛なべ 荒井屋
  • 紅茶のパンナコッタ/ラ・プリムラ

※料理篇から選んでみた妄想リスト。登場順。こうして見ると、私って牛肉&ガーリックラヴで、調理法は「焼く」なのが好きだなー。判りやすすぎ。

*1:しかも、店には1人で行くのが基本だそう。加えて、担当編集者の話では、165cm・45kgというスレンダーバディをお持ちだそうで……太りやすい私としては羨ましい限り