『ねむりねずみ』(37/100)

ねむりねずみ (黄金の13)

ねむりねずみ (黄金の13)

歌舞伎役者・中村銀弥の若妻・一子は、舞台のことしか頭にない夫に満たされない想いを抱き、雑誌記者・大島と密かな逢瀬を重ねていた。ある日突然、銀弥は言葉を忘れていくという奇妙な症状を訴えるようになり、一子はただただ困惑する。
大部屋役者・瀬川小菊のもとに、大学時代の同級生の今泉が訪ねてきた。今泉は探偵になり、人気役者・小川半四郎の婚約者・河島栄が劇場の客席で殺された事件を調べていた。その時、半四郎は目の前の舞台に出演中だった。栄が女将を務めていた料亭に向かった小菊と今泉は、思わぬ情報を得る。栄が殺される前の晩、中村銀弥が店にやって来たが、いつの間にか姿を消していたというのだ――。


いきなり4作目の『二人道成寺』から入った歌舞伎シリーズは、94年に出版された本書が第1作目らしい。
事件の真相はかなり強引というか荒唐無稽で、「えーっ、そんなのありー!?」というのが正直な感想。でも、役者の世界だったらそういうことがあってもまぁおかしくはないかな、という気がしないでもない。
個人的には事件そのものよりも、随所にちりばめられた、小菊の歌舞伎役者としての心情描写に胸を打たれた。舞台で日の当たる時は来ないと判っていながらも、自分は歌舞伎を支える土台なのだと割り切って生きる「中二階*1」としての心意気。それでも時折、舞台の真ん中に立ちたいと渇望してしまう役者の業。何だか小菊がいとおしくなってしまった。

歌舞伎界の裏話はやっぱり興味深い。ストーカーみたいなファンが出てきたり、後援会の女の子たちが濃いネットワークを持ってたりする辺りは、何処の世界も同じなんだな〜と思ったり。「素顔なら隠せる気の迷いが、白塗りだと全て出てしまう」「化粧の手を抜いた日は不思議と出とちりする」というのも深い。
あと、94年当時の作者のこだわりなのか、「エレベェタァ」とか「アイスコォヒィ」といった、独特の表記がちょっと気になったかも。


歌舞伎シリーズは2作目、3作目と続けて読んでいく予定。楽しみ楽しみ。

*1:大部屋役者のこと