『桜姫』(40/100)

桜姫 (文芸シリーズ)

桜姫 (文芸シリーズ)

歌舞伎役者・市村朔二郎の娘、小乃原笙子は、若手大部屋役者の勉強会で、主役の桜姫を演じた中村銀京と知り合う。銀京は、子供の頃に亡くなった笙子の兄・音也と友人同士だったが、彼の死に疑問を抱いていた。雑誌に発表された音也の死亡日よりも、最後に自分と音也が遊んだ時の写真の日付の方が後だというのだ。笙子は、兄を殺す夢を頻繁に見ること、父に愛されていないこと、兄の死に関して周囲の人々が隠し事をしているらしいことを銀京に打ち明け、2人は、音也の死の真相を探り始める。


歌舞伎シリーズ3作目。4冊立て続けに読んだら、歌舞伎の舞台を一度生で観てみたくなってしまった(でも敷居が高いなぁ……)。
音也の死の真相追求を本筋に、シリーズの主役・瀬川小菊の師匠と共演中の子役が不審死を遂げる事件も起こり、2つの謎解きが平行して進んでいく。
音也・笙子兄妹、小菊の両方と接点がある中村銀京が、野心的かつ何を考えているのかよく判らないキャラで、キーマンとしてはよい感じだった。
小菊の一人称パート、もう1人の人物(本作では笙子)の一人称パートが交互に登場するのは、このシリーズお約束の手法。でも、サバサバした女形言葉を使い、時折コメディタッチにもなる小菊パートに対して、笙子の孤独感や心の揺れ動きの描き方は実に繊細。『散りしかたみに』を読んだ後にも感じたのだけど、青みがかったようなひんやりとした空気を感じさせる文章が上手いな〜と思う。


(以下、ネタバレ気味なので折りたたみ)




全く予想もつかない真相に「え゛ーーーーーーーーっっっ!!??」って感じだったのだけど、それが明かされる時の銀京の言葉、そしてその後の笙子の回想には、ホロリときてしまった。とても切なく哀しいけれど、ちょっと希望がなくもないというか……そんな結末だった。
しかし探偵の今泉ってば、数日間でどっからどうやって真相を調べ上げているのか、毎度のことながらすごく不思議だ。今回、調査の場面が全然ないせいか、今泉は単に真相を告げる人、って感じになっちゃってた気がする。
それと、1作目『ねむりねずみ』の重要人物・中村銀弥が銀京の師匠として出てきて、「元気でやってるみたいでよかったねぇ」と思ったりもした。
歌舞伎シリーズの中では、『二人道成寺』と並んで好きかも。