『空中ブランコ』(47/100)

空中ブランコ

空中ブランコ

空中ブランコで失敗続きのサーカス団員、先端恐怖症のヤクザ、医学部教授である義父のヅラをむしり取りたい衝動をこらえる医師、いきなり送球ができなくなったベテランプロ野球選手、過去の作品の人物設定を病的に気にするようになった売れっ子女性作家。精神的な疾患を抱えて伊良部総合病院を訪れた5人は、肥満体で注射フェチの精神科医・伊良部のハチャメチャな行動に振り回されるように……。5編からなる短編集。


奥田英朗の本は初めてなのだけど、サラサラ読めてとても面白かった。
伊良部先生は実にヘンテコリンな精神科医で、投薬やカウンセリングをする訳ではなく、ただただ注射を打ち、患者の生業に自分もワーイワーイおもしろそー、と無邪気に首を突っ込む。空中ブランコの練習をしたり、ヅラをむしり取る計画を立てたりと、まるで子供みたいなのだ。患者たちは呆れ返りながらも伊良部につき合ううちに、いつの間にか症状が軽減している……というパターン。ちょっと「現代のお伽噺」っぽい。
伊良部の行動が確信犯なのかそうじゃないのか謎なのだけど、読んでいるうちに、自分も伊良部のペースに引き込まれてニヤニヤし、最後には心が軽くなっていた……って感じだった。
5編とも患者の視点で書かれていて、一般的ではない職業に就いてる人ばかりなのに、まるでその職業を体験したことがあるかのような細かい描写がすごい。
全体的にマンガチックな展開なのだけど、特に笑ったのは『ハリネズミ』の、ナイフが怖い若頭が血判状を捺す場面。あと『義父のヅラ』で、歩道橋の表示にイタズラしたりとか、ヅラをむしり取りたくてムズムズする描写もおかしかった。。『女流作家』のラストで、無愛想な看護婦・マユミちゃんの取った行動には心がほかほか。


この作品が直木賞を取っていたとは知らなかった。ついでに伊良部シリーズの2作目だということも……。またシリーズものを途中から読んでしまったorz でも、全く違和感がなかった。1作目『イン・ザ・プール』も読まねば。