ジェフを覚醒させた指揮官(1/100)

東京駅の京葉線連絡通路はジェフ千葉の広告で埋まっていて、オシム監督の写真には表題のようなキャッチがつけられていた。
シニカルかつウィットに富んだオシムのコメントは、ジェフサポだけでなく、他チームサポでも楽しみにしている人が多いはず。私もその1人で、ケータイのサッカーサイトの試合後コメントを読む時は、レッズの監督&選手コメントに続いて、大体ジェフの監督コメント欄をクリックしていたりする。
今年、特に印象的だったのは、ナビスコ決勝前夜祭の時のこのコメント。

「ジェフの選手はよく走るという風に言われますが、プレーはできないと思っているでしょうか(笑)。走りながら、少しはプレーしていますよ(笑)」


レッズサポとしては、駒場での準決勝第一戦の時のコメントも心に残る。

マリッチがケガをしたことを心配している。プライベートでよく知っている間柄だからね。ときには、試合よりも大切なことがある」


ほかにパッと思い浮かんだものだけでもこれだけある(間違っていないかどうか、一応確認済)。

「列車は行ってしまったのだ」(フクアリでのレッズ戦後のコメント)
「皆さん*1、警察に先導されてやって来たわけではないでしょうから(笑)」(ナビスコ決勝後のコメント)
「世界の奇跡だね*2」(何の試合だったっけ? 今年であることは確か)
「それでも人生は続くのです」(いくつかの試合で言っていたような)


そんなオシムの本が今月発売された。

初版は7000部で、あっという間に書店から姿を消したらしい。ジェフの選手も買ったらしいし(笑)。私も発売日の数日後に5〜6軒回ってみたけれど見つからず(『ナカタノナカミ』とか『備忘録』とかは何処にでもあるのにー)、地元の書店で、ベストセラーコーナーに置かれた最後の1冊をやっと手に入れることができた。で、「はてな100冊読書クラブ」開始日に設定した12/8以降に、初めて読み終えた本がこれだったりする。
そうそう、昨日の夜、渋谷のブックファーストB1のサッカー本コーナーに平積みされてましたよ。増刷分が入荷したのかな。丸一日経ってるので、もう売り切れちゃってるかもしれないけど……。


サッカー選手から監督になり、「名将」と呼ばれるに至るまでのオシムの半生が、本人は勿論、ジェフの選手や旧ユーゴ代表選手らの証言を絡めながら綴られる。
残留争いの常連だったジェフを強いチームに変えてゆく過程に関しては、ひょっとしたら、ジェフサポの方々にはおなじみの事実ばかりかもしれない。今年に入ってからの出来事が結構載ってるし……でも、オシムが来るまで指導者になかなか馴染めなかった佐藤勇人のことなど、個人的には新鮮に感じられるエピソードが多かった。
圧巻はやはり、旧ユーゴスラビア〜欧州のクラブチーム時代のエピソードの数々。ユーゴの内戦で各方面から圧力をかけられながらも、多民族が集まった旧ユーゴ代表チームを結束固くまとめ上げるオシム。愛する妻と娘が包囲戦真っ只中のサラエボを脱出できずにいる中で、ギリシャオーストリアのクラブチームに魅力あるサッカーを植えつけていくオシム。選手たちからは尊敬され慕われ、思わず目から汗を流してしまうようなエピソード(これは是非読んで確認して欲しい)もあった。
オシムの強さと同時に、傷の深さや背負ってきたものの大きさが胸に迫ってくる。そういう人が、モオノキをバックにファンのサインに応じたり、うちからそれほど遠くないカルフールで生ハムを買おうかどうか迷っていたりする(←ジェフサポの目撃談)なんて、何だか不思議な感じだなぁ……。


それと、この本を読んで、自らのユーゴ内戦への認識の甘さにショックを受けた。私は、クロアチアスロベニアボスニア・ヘルツェゴビナといった国の人々は、単純に旧ユーゴからの分離独立を喜んでいるものだとばかり思い込んでいた(この本に登場する選手だと、クロアチアのボバンみたいに)。でも決してそうとは言い切れず、多民族が仲良く共存していた旧ユーゴスラビアを愛し、懐かしむ*3人たちも沢山いたのだと思い知らされた。オシムしかり、ピクシーしかり。


唐突に略語が出てきたりするうえ、旧ユーゴスラビアやユーゴ内戦の知識が多少ないと、やや混乱してしまう部分もあるかも(私は地図を見ながら読んだりしていた)。でも文章は比較的読みやすいし、ジェフサポではない人、いやサッカー好きではない人にも是非読んで欲しい一冊。
個人的には、木村氏が旧ユーゴスラビア地域を飛び回り、サッカーを通して人々の考えや現状を描いた「悪者見参―ユーゴスラビアサッカー戦記」も読みたくなった。で、また何軒もの書店を探し回って見つけ、今読んでいるところだったりする。これから「オシムの言葉」の再版を仕入れる予定の書店は、是非「悪者見参」、それと「誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡 (集英社文庫)」も一緒に入れることをおすすめします。私みたいに、オシム本の後に読みたくなる人が、10人中5人くらいはいるんじゃないかと思うので(たぶん)。


オシム夫妻はこの間の日曜日、成田に駆けつけた大勢のジェフサポに見送られて、笑顔で帰国したそうだ(著者の木村氏も来ていたらしい)。例によって来季の去就は明らかにしていないようだけど、オシムが率いるチームとまた戦いたいので、是非戻ってきてください。今年、1度も勝てなかったし……。



オシム監督語録
http://www.so-net.ne.jp/JEFUNITED/goroku/index.html


オシムの通訳・間瀬氏のクロアチアリーグ時代
http://homepage2.nifty.com/hrvgo/report/masesyuichi.htm

*1:ジェフ・ガンバ両サポ以外の観客

*2:いつも途中出場・途中交代の林選手が90分間プレーして決勝ゴールを決めたことを指す

*3:オシムの故郷サラエボは、特に多民族が混在していて、セルビア正教会、カトリック教会、イスラムのモスク、ユダヤ教シナゴーグが並んでいる街だったりする