旧ユーゴのスタジアムを淡々と巡る(13/100)

3/1の代表戦の相手がボスニア・ヘルツェゴビナに決まったり、鱸がセルビア・モンテネグロレッドスター・ベオグラード*1に移籍濃厚だったりと、旧ユーゴ地域と日本が絡んだサッカーニュースがポツポツと聞かれる今日この頃。
実際の読了日は1/14。

97年。旧ユーゴ地域に衝動的に渡った著者が各国のスタジアムを巡り、サッカーを通してかの地の複雑な情勢を捉えようと試みたノンフィクション。
先月読んだばかりの『悪者見参』(id:RINRIN:20051225#p1)とテーマがかなり被っているので、どうしても比較してしまう。

で、『悪者見参』に比べると、随分あっさりした内容だな〜と感じた。決して軽いテーマではないのに何故だろう?と考えた結果、以下の理由によるものかと。

  1. まず宇都宮氏は木村氏と違って、明確な目的があって旧ユーゴに渡った訳ではないこと。「何故ユーゴだったのか自分でもよく判らなかった」と書いているくらいだし。
  2. 加えて、木村氏ほどの人脈や行動力がないこと。木村氏のように代表選手と懇意にしている訳でもないうえ、語学力も「高校生程度の拙い英語」程度で、現地の人々が何を言っているのか理解できないという場面も多い。なので、ユーゴ内戦について書いている件も、宇都宮氏自身の取材による裏づけが薄い感じがする。
  3. 一番大きいのは、宇都宮氏はユーゴの代表チームやクラブチーム、選手が特に好きって訳ではないということ。木村氏はユーゴ代表のファンなので、その思い入れの深さが『悪者〜』に濃密さを加えていた。でも宇都宮氏にはそれがないので、どうも淡白な印象を受ける。正直なところ、何とな〜くスタジアムを観て歩いているような感じで、「サッカーを切り口に旧ユーゴ情勢を伝える」というのは結果論ではないか、という気すらした。もしも最初からそのつもりでいたのなら、「見知らぬ国の人々を知るためにはスタジアムへ行くことをおすすめする」というような一文は、是非最初の方に持ってきて欲しかったなぁ。


あ、でも、決して本書に失望した訳ではない。
ジャーナリストというより旅人っぽい視点で旧ユーゴを捉えており(と私は感じた)、文章も淡々としているので取っ付きやすい。スロベニアクロアチアボスニア→ユーゴと回るのだけど、各章の導入部に「ついにサラエボにやってきました」的な「手紙」と地図が載せられている辺りは紀行文っぽい。
電車の中で出会ったスロベニアの少女、ベオグラードでデモを行っている学生ら、旅先で出会った人々との触れ合いのひとつひとつを大切にしている辺りにも好感が持てる。デモに参加させてもらって興奮したりとか。逆に、ハイドゥクの血気盛んなサポに絡まれたりもしてるけど。そんな出会いの数々が、写真の中に息づいている感じがした。
サッカーに関しても、オシムの出身チームジェレズニチャル(ボスニア)、クロアチアの名門ハイドゥク・スプリットvs.弱小チームのオリエント・リエカ、最近話題のレッドスターなど、日本では極端に情報が少ないチームのことが書かれていて興味深い。スタジアムや試合の描写も『悪者〜』より薄味ではあるけれど、チームを愛し、ゲームに熱狂するサポーターの姿はどの国でも同じなんだな、と実感した。


タイトルから受ける先入観よりも、かなり読みやすい本だと思う。『悪者〜』よりも本書の方が、旧ユーゴ入門書としては適しているかも。

*1:鈴木隆行」という虫唾の走る名前と、レッズの新鋭選手を連想させる「レッドスター」とを並べるのが嫌な方は、レッドスターではなくズベズダ(現地語のチーム名)と認識すればよいと思う。「鱸、ズベズダに移籍濃厚」って具合にね。