『立原家の食卓』(52/100)

先立って読んだ『ラブレーの子供たち』で取り上げられていたこの本。先日のマリノス戦の待機時間に1冊読み終えた。

立原家の食卓―素食こそ美食

立原家の食卓―素食こそ美食

作家・立原正秋夫人の光代さんが、夫や子供たちとともに過ごした鎌倉での日々の生活を、食事を中心に振り返った回想録。四季折々のお献立や家事の仕方に加えて、立原氏の人となりがうかがえるエピソードや、鎌倉の美しい自然の描写などが随所に挟み込まれている。
立原氏はものすごーく味にうるさい人だったようで、毎日の食事を整えることに、光代さんがいかに心を配っていたかがよーく判る。ごはんは必ずお鍋で炊き、食が細る夏は一品の量を少なく品数を多めに作る(食欲を起こさせるため)、などなど。そして「素食」とはいうものの、自分で煮たふきや山椒や黒豆、下処理からきっちり始める魚や鶏もつ料理など、一品一品がとても丁寧に作られていて、ものすごく贅沢な食事だと感じる。
家事に至っては、「1日に何度も洗濯機を回す」「セーターは毛糸が硬くなってきたら編みかえる」などとあって、まいりました、ハハァー、とひれ伏したくなってしまう。ご本人は穏やかな口調で淡々と綴っておられるのだけど、主婦の鑑です。『クウネル』だとか『暮らしの手帖』だとか、そっち系好きの人には強力におすすめしたい。


ただ、立原氏の「味が気に入らないといきなりお膳を引っくり返す」「毎回食事に文句」って行動は、何だか嫌だな〜と思った。光代さんは日々の家事に忙しくて外出ができなかったそうだし、我が物顔に振舞う夫と耐える妻、みたいな、古い時代の日本の夫婦像が浮かび上がってきてしまう。それでも光代さんは不平ひとつ言わずに夫を支え続け、それをごく普通のことだと考えておられたのだから、えらいと言うほかない。私には無理だ。