『どんがらがん』(65/100)

はてな年間100冊読書クラブ活動を始めて、翻訳小説を1冊も読んでいないことに気付いた(『〜美しきパリの12か月』は一応翻訳小説だけど、ノンフィクションのつもりで読み始めたし)。翻訳小説って、忙しい時や疲れてる時なんかは文章が頭に入ってこなかったりするし、ここ数年あんまり読んでなかったなぁ……このままじゃ読む力がなくなりそうだ。いかん。
ということで、インパクト大な書名に惹かれ、ジャケ買いならぬタイトル借り。読了日は7/4。

アヴラム・デイヴィッドスンって初めて知った。SF、ミステリ、幻想文学関係の賞を受賞している短編小説の名手で、エラリー・クイーンの代作経験もあったりするそうだ。本書は、氏の大ファンだという殊能将之氏がセレクトした16篇を収めた中短篇集。
『さもなくば海は牡蠣でいっぱいに*1』とか『そして赤い薔薇一輪を忘れずに』など、タイトルが凝っててカッコいいな〜というのが、目次を見ての第一印象。
1日約1篇ずつのペースでちびちびと読んでいたのだけど、SFありミステリありファンタジーあり分類不可能な作品ありで多彩。でも全作品に共通するのは、不思議というか、何とも奇妙な後味が残るってこと。「この始まり方でこういうオチが来るとは!」みたいな。河出書房新社の「奇想コレクション」の1冊なんだから無理もないけど、まさに奇想天外、ぶっちゃけヘンテコリンな話ばかり。
ほぼ年代順に収録されているそうだけど、正直、後ろの方の話は、何だかピンとこないというか、よく判らんな〜というのが多かった。私の感受性が鈍いからかもorz 『そして赤い薔薇一輪〜』や『ナポリ』、『すべての根っこに宿る力』なんかは、ナポリの裏町やメキシコの情景描写、不思議な本屋や祈祷師の「治療」のファンタジックな雰囲気を楽しんだって感じ。
気に入ったのは、老夫婦vs.怪しげな男の会話が笑える『ゴーレム』(この作品が個人的ベスト1)、何ともいえない余韻が残る『さあ、みんなで眠ろう』、童話みたいな味わいの『クィーン・エステル、おうちはどこさ?』、ハートフルな『パシャルーニー大尉』、それと、"どんがらがん"とともに移動する集団が登場する『どんがらがん』(←説明になってない)。"どんがらがん"ってクセになる言葉だな。どんがらがーん! どんがらがーん!


電車の中で読んだりするより、時間のある時、家で1篇1篇噛み締めるようにして読んだ方がハマれる本だった。サクサク読めるような文体じゃないからねぇ。でもなかなか楽しめたので、奇想コレクションはまた読んでみたいと思う。


以下、どうしても気になったこと。ネタばれありなので折りたたみ&白文字で。





『さもなくば海は牡蠣で〜』のラスト、ハンガーと安全ピンの関係に気付いてしまったファードが、ハンガーに殺されたってことでOK?
サシェヴラル』は猿だよね?(作者が曖昧にしてるらしいけど)
『どんがらがん』で埋まってた「人形をした巨大な像」って、ひょっとして自由の女神……?

*1:日本で初めて紹介された時のタイトルは『あるいは牡蠣でいっぱいの海』だったそうで、Amazonのレビューで「なんでタイトル変えたんだ!」と激怒してる人がいる