女学生が愛したもの

Amazonギフト券欲しい! と思ったら、キャンペーンは28日までだったのか……残念。つーか、当選者も発表済みだったよ。懲りずに、数ヵ月前に買った本のことを。女子校育ちの私は、この手の本には超弱い。


高校生の時、数学の先生がこんなことを言っていた。
「女子校っていうと、みんな窓辺で静かに詩集を読んだりしていて、おもむろに本を閉じてほぅっ、とため息をついて空を見上げる感じなのかと思ってた。でも、この学校に初めて来た日、食堂の前で3-4人がジャージ姿でドタンバタンやってた。『何してるの?』と聞いたら、『四の字固めの練習してまーす』って言われて、その瞬間、頭の中の女子校のイメージがガラガラと崩れ落ちた」
ちょっとM先生、今どきそんな人いないよ〜と笑い転げたけど、この本に登場する女学生たちは、まさにM先生の妄想イメージどおりの乙女ななず。

女学生手帖―大正・昭和乙女らいふ (らんぷの本)

女学生手帖―大正・昭和乙女らいふ (らんぷの本)

大正末期〜昭和初期に花開いた女学生文化を、豊富な図版を交えながら紹介した1冊。制服&私服のおしゃれ、マナー、言葉遣い、各少女雑誌の解説、悩み相談などが載っていて、ちょうどその頃東京の女学館に通っていた、亡き母方の祖母に見せたかったな……と思う。
当時の少女雑誌において「詩」は目玉扱いで、巻頭のカラーページに美しいイラストとともに掲載され、詩画集なども多く出版されていたとか。「当時の詩集=今で言う浜崎あゆみのCD=若い女の子が自分の心情を重ねあわせやすい」というのが本書の見解で、なるほど、という感じ。
中原淳一高畠華宵のイラスト、吉屋信子川端康成少女小説*1、宝塚や松竹の少女歌劇、ビーズ細工にクレープペーパー細工など、当時の女学生たちが愛したのは、はかなくてロマンチックで可憐なものばかり。雑誌のおたよりコーナーもこんな具合。

東神奈川の山手に建てられた、ホワイトハウスを皆様御存知でしょう。この校こそ私共の学舎ですの。清い讃美歌と祈祷と親切な先生方によってはぐくまれて行く私共は幸福ですの。クラスの方々は中々皆様茶目で居らっしゃいますの。

いかにも乙女がしたためる文章!って感じだけど、それに続く

(中略)近頃大分ダンス熱が上ってそれはそれは大変ですの。自習時間には皆様お教室を舞踏場と心得、T様Y様ご指導のもとにドタンバタン大騒ぎ。とても面白いんですの。

このくだりを読むと、私が女子校生だった頃(昭和末期〜平成初期)と、やってることが大して変わらないんじゃないかって気もする(笑)。


多くのページが割かれているのは、少女小説と、そこで主な題材にされている、「S(エス)」と呼ばれる女学校独特の人間関係について。解説の嶽本野ばら氏の言葉を借りると「女子同士の友情以上、恋愛未満の感情、もしくは関係のことを指します」とのこと。
私たちの時代には、吉屋信子の小説みたいな濃密な関係も、「エス」という言葉もなかったけれど、ボーイッシュだったり美人だったりと目立つ上級生に憧れて手紙を書いたり、ノート(交換日記)を申し込んだり、一緒に写真を撮ってもらったり、というのは普通にあったなぁ。ときには同級生が対象になることもあって、私も中学時代、同級生の子が好きだった。ノートもやってたし、バレンタインにチョコレートケーキとか焼いてプレゼントしたよ。
と、こういうことを共学出身の子に話すと「気持ち悪〜い」「それってレズじゃないの?」とか言われたけど、レズとは絶対に違う。これは野ばらさんも力説してたけど、私も強く主張してみる。
こういう関係が発生するのは、やっぱり周りに男子がいないからだと思う。でも恋愛関係と違うのは、相手が振り向いてくれて、おしゃべりやノートやツーショット撮影などに応じてくれれば、それで満足してしまうってことだ。それ以上先に進むことはありえないし、考えたこともない(それより先に進んでしまうとレズになるのだと思う)。「一緒にいると胸がドキドキする親友」……これが一番近いニュアンスかな。
ちなみに、高校に進むとこういう関係は消滅して、私はその同級生の子と、ごく普通に仲のいい友達になった。中学時代、初めて日比谷に宝塚を観に連れて行ってくれたのも彼女だった。今、元気にしてるかなぁ。


……などと、私にとっては、居心地最高だった女子校時代をしみじみと思い返させてくれる本だった。
大正末期〜昭和初期って、戦争の足音がひたひたと迫っている時期で(本書ではあえてその辺には触れられていない)、女学生たちは暗い世相や、卒業したらほとんどがお嫁入りという閉塞感のある未来に抵抗するかの如く、美しいものに心をときめかせていたんだろうな〜と思うと……切ない。


戦争の影とは無縁で、のほほんとしていた私の女子校時代は、この日記の初回(id:RINRIN:20040209)にも書いたけど、『クララ白書』の雰囲気に一番近いかも。

クララ白書 1 (コバルト文庫)

クララ白書 1 (コバルト文庫)

クララ白書 2 (コバルト文庫)

クララ白書 2 (コバルト文庫)

うわーっ、イラストが原田治氏じゃなくなってる! 確かに、今のイラストの方がしーの*2っぽい感じはするけど、何か寂しい。

*1:川端康成がそういうジャンルの小説を書いていたとは!知らなかった

*2:クララ白書』の主人公